
■昆虫の栄養

■昆虫成分表
三橋淳編著『虫を食べる人びと』(1997年、平凡社刊)「第9章 虫の栄養」の各種成分表と解説の要約を掲載。昆虫の栄養価を紹介します。

各種食用昆虫に含まれるミネラル |
(100グラム中のミリグラム数) |
| カルシウム | マンガン | 鉄 | 燐 | 硫黄 | マグネシウム | 銅 |
サバクトビバッタ雄 | 37 | 1 | 36 | 56 | 32 | | |
サバクトビバッタ雌 | 17 | 1 | 27 | 44 | 32 | | |
シロアリ(Macrotermes subhyalinus) | 40 | | 7.5 | 438 | | 417 | 13.6 |
ヤママユガの一種(Imbrasia ertli) | 50 | | 2.0 | 546 | | 231 | 1.4 |
ヤママユガの一種(Usta terpsichore) | 355 | | 35 | 695 | | 54 | 2.4 |
ヤシオサゾウムシの一種(Rhynchophorus phoenicis) | 186 | | 13 | 314 | | 30 | 1.4 |
一般に昆虫は人が必要とするミネラルをかなり含んでいる。ザイール産のケムシ、イモムシ21種のミネラルを分析した結果によると、これらの幼虫は鉄分を多く含み、100グラムの虫は大人の1日の必要量の3倍以上を含んでいたという。

各種食用昆虫のタンパク質および脂肪の含量 |
(乾燥重量に対するパーセント) |
| タンパク質 | 脂肪 |
モパニワーム(Goninblasia belina) | 63.0 | 17.0 |
ハスモンヨウ近似種(Spodoptera frugiperda) | 57.8 | 20.0 |
シャチホコガの一種(Anaphe venata) | 60.1 | 23.2 |
ヤママユガの一種(Cirina forda) | 62.31 | 12.49 |
ヤママユガの一種(Imbrasia epimethea) | 64.5 | 9.11 |
セセリチョウの一種(Aegiale hesperiaris) | 30.9 | 58.6 |
ボクトウガの一種(Cossus redtenbachi) | 30.2 | 56.8 |
シロアリの一種(Macrotermes subhyalinus) | 38.42 | 46.1 |
ヤシオサゾウムシの一種(Rhynchophorus phoenicis) | 20.34 | 41.73 |
イナゴ | 68.1 | 4.0 |
サバクトビバッタ | 51.5 | 10.7 |
ミズムシの一種(Atizies taxcoensis) | 70.3 | |
アリの一種(Liometopum apiculatum) | 66.9 | 12.1 |
ビーフ | 81.1 | 14.9 |
ポーク | 23.01 | 75.14 |
チキン | 73.21 | 23.21 |
昆虫のタンパク質含量はかなり高く、多くの種で乾燥重量の60%以上もある。

各種昆虫タンパク質に含まれる必須アミノ酸 |
(タンパク質1グラム中に含まれるミリグラム数) |
| 必須アミノ酸 |
| Arg | His | Iso-l | Leu | Lys | Met | Phe | Thr | Try | Val |
セクロピア蚕 | 53 | 27 | 33 | 51 | 44 | 14 | 43 | 41 | ND | 45 |
タバコスズメガ | 53 | 37 | 43 | 68 | 71 | 18 | 47 | 41 | ND | 66 |
ハスモンヨトウ近似種(Spodoptera frugiperda) | 67 | 38 | 44 | 77 | 77 | 24 | 49 | 51 | ND | 52 |
ヤママユガの1種(Imbrasia estli) | | | 36 | 37 | 39 | 16 | 17 | 41 | 8 | 42 |
ボクトウガの1種 | 60 | 16 | 51 | 79 | 49 | 8 | 40 | 47 | 6 | 61 |
バッタの1種(Sphenarium histrio) | 66 | 11 | 53 | 87 | 57 | 7 | 44 | 40 | 6 | 51 |
シロアリの1種(Macrotermes subhyalinus | | | 78 | 59 | 64 | 12 | 33 | 29 | 5 | 55 |
ミツツボアリの1種(Atta mexicana) | 47 | 25 | 53 | 80 | 49 | 19 | 41 | 43 | 6 | 61 |
アリの1種(Liometopum apiculatum) | 50 | 29 | 49 | 76 | 58 | 18 | 39 | 42 | 8 | 60 |
Arg:アルギニン; His:ヒスチジン; Iso-l:イソロイシン; Leu:ロイシン; Lys:リジン; Met:メチオニン; Phe:フェニルアラニン; Thr:ロレオニン; Try:トリプトファン; Val:バリン ND:検出されなかったもの |
昆虫のタンパク質を構成するアミノ酸の特徴は、リジンとトレオニンが多いことである。リジンやトレオニンはコムギ、コメ、トウモロコシなど穀類やキャッサバには非常に少ない。したがってこれらの植物を主食とする地域では、昆虫を食べることは栄養上たいへん重要であると考えられる。

各種昆虫のカロリー |
(乾燥重量100グラム中のカロリー数) |
セクロピア蚕幼虫 | 358 |
タバコスズメガ幼虫 | 418 |
ハスモンヨトウ近似種(Spodoptera frugiperda)幼虫 | 443 |
シャチホコガの1種(Anaphe venata)幼虫 | 610 |
ヤママユガ幼虫(23種の平均) | 457 |
セセリチョウの1種(Angiale hesperiaris) | 593 |
モルモン・クリケット成虫 | 345 |
バッタの1種(Sphenarium mexicanum)幼虫・成虫 | 438 |
シロアリの1種(Macrotermes falciger) | 761 |
シロアリの1種(Macrotermes subhyalinus) | 613 |
ミツバチ幼虫 | 475 |
イエバエ幼虫 | 499 |
アリの1種(Liometopum apiculatum)幼虫・蛹 | 499 |
チャイロコメノゴミムシダマシ幼虫 | 553 |
卵白 | 570 |
卵黄 | 800 |
メキシコ国立自治大学のラモス・エロルデュイ教授によると、豚肉以外では、動植物食物を通じて、もっともカロリーの高いのは大豆で100グラム当たり446キロカロリーであるが、分析した昆虫の大半が大豆よりカロリー値が高かったという。

各種昆虫全脂肪中の脂肪酸の割合(%) |
| 脂肪酸 |
| ラウリン酸 | ミリスチン酸 | パルミチン酸 | パルミトオレイン酸 | ステアリン酸 | オレイン酸 | リノール酸 | リノレニン酸 | アラキドン酸 |
ヤママユガの1種(Imbrasia ertli) | 0.5 | 1.0 | 22.0 | 22.0 | 0.4 | 2.0 | 20.0 | 11.0 | 38.0 |
ヤママユガの1種(Usta torpsichore) | 0.2 | 2.3 | 27.4 | 27.4 | 0.1 | 1.7 | 27.2 | 2.8 | 7.5 |
ヤシオサゾウムシの1種(Rhynchophorus phoenicis) | 0.1 | 2.5 | 36.0 | 36.0 | 0.3 | 30.0 | 26.0 | 2.0 | 0.6 |
シロアリの1種(Macrotermes subhyalinus) | 0.1 | 0.9 | 33.0 | 33.0 | 1.4 | 9.5 | 43.1 | 3.0 | 0.4 |
コレステロール含量が一般に低いのも昆虫脂肪の特徴である。昆虫はステロールを合成できない。しかし細胞膜を作ることなどにステロールは必要である。昆虫はステロールを餌や体内に共生している微生物に依存している。食肉性昆虫は動物の脂肪に含まれるコレステロールを利用する。食植性昆虫は植物性ステロールを摂取して体内でコレステロールに変える。この変換ができない昆虫はコレステロール以外のステロールの形で利用している。したがって昆虫は無コレステロールまたは低コレステロール食品として有望といえる。

各種昆虫のビタミン含有量(昆虫100グラムに含まれるミリグラム数) |
| ビタミン |
| VA | チアミン | リボフラビン | ニアシン | ピリドキシン | ピオチン | 葉酸 | パントテン酸 | B12 |
ヤママユガの1種(Nudaurelia oyemensis) | 0.03 | 0.15 | 3.2 | 9.4 | 0.05 | 0.03 | 0.02 | 0.008 | 0.014 |
ヤママユガの1種(Imbrasia truncata) | 0.031 | 0.27 | 5.1 | 10.9 | 0.037 | 0.045 | 0.037 | 0.01 | 0.025 |
ヤママユガの1種(Imbrasia epimethea) | 0.044 | 0.17 | 4.0 | 11.0 | 0.063 | 0.023 | 0.063 | 0.007 | 0.015 |
シロアリの1種(Macrotermes subhyalinus) | | 0.13 | 1.14 | 4.59 | | | | | |
ヤシオサゾウムシの1種(Rhynchophorus phoenicis) | | 3.02 | 2.24 | 3.00 | | | | | |
VA:レチノール(ビタミンA)、B12:シアノコバラミン |
昆虫にはビタミンとしてレチノール(A)、チアミン(B1)、リボフラビン(B2)、エルゴステリン(D)を含むものが多い。ミツバチ幼虫のエルゴステリンはタラ肝油に含まれているそれの10倍もあり、またレチノールは卵黄に含まれている量の2倍ある。

■昆虫の薬効

チョウのサナギと幼虫に「がん」を治す物質がある
「年末ジャンボなめくじ」と聞いて、どんな「くじ」かな、と思ってましたら、「年末にジャソボなめくじを食べると、次の年、ぜんそくや花粉症にならない」という話でした。事実、なめくじを焼いて食べると、ぜんそくにならない、という言い伝えが沖縄にはあります。
一方、カイコや青虫を乾燥して粉にして飲むと、ぜんそくが治るということが関東地方に昔から言い伝えられています。
ところが、モソシロチョウのサナギと幼虫に「がん」を治す物質が含まれていることが、最近の日本がん学会で発表されたから、驚きです。
「本当にそうだろうか」と疑う人は「チョウがない人」です。国立がんセソター研究所の副所長らの研究ですから信頼できるのです。
若林敬二副所長らは、モンシロチョウのサナギと幼虫に含まれるタソパク質に、がん細胞を壊す働きがあることを見つけました。このタソパク質は、人間の様々のがんにアポトーシス(細胞死)を起こすことが実験で確かめられ、細胞レベルでは一般の抗がん剤を上回る効果が認められました。
同研究所はこのタソパク質に「ピエリシンエ」という名前をつけました。この物質は多種類のがんに微量で効果がありました。とくに子宮、胃、大腸のがんの増殖を強く抑えました。がん細胞のDNAに結合し、アポトーシスを誘発していました。チョウのなかでは、この物質は外敵防御の役目をしているらしいのです。
(『「万病」虫くだし』藤田紘一郎著、廣済堂出版より転載)

[虫食通信]
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