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■日本の昆虫食

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■終戦直後の食用昆虫アンケート

野村健一著『文化と昆虫』(1946(昭和21)年、日本出版社刊)の「食用昆虫の利用状況」という表を掲載します。この表は日本で食べられたことのある昆虫の大半を網羅しています。これらの食材を一つ一つ食べてみることが今後の会活動の大きな柱でしょう。また今回おこなうアンケートと比較検討することで、戦後から現在にいたる昆虫食文化の変遷が考察できるものと期待しています。

食用昆虫の利用状況
○印は利用例のあるもの
虫名地方回答内容の全国的統計
東北・北海道関東中部近畿中国四国九州利用例数良味例数普及例数
膜翅目ハチ類(主に幼虫)1299640
アリ6
鞘翅目カミキリ(幼虫)906410
コガネムシ(主に幼虫)102
ゲンゴロウ2994
ガムシ102
鱗翅目カイコ(主に蛹)65378
ニカメイチュウ3
マツケムシ2
モンシロチョウ(幼虫)4
その他の幼虫124
直翅目バッタ類1119264
コオロギ235
カマキリ1431
ケラ61
その他621
半翅目セミ2091
タガメ(主に卵)31
その他トンボ(主に幼虫)32131
ヘビトンボ(主に幼虫)1431
トビゲラ・カワゲラ(幼虫)432

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■長野の昆虫食

日本の食生活全集20『聞き書 長野の食事』(1986(昭和61)年、農文協刊)より、昆虫食関連記事を抜粋してみました。長野の昆虫食文化が網羅された貴重な資料です。

●安曇平

■いなご

 秋には田のあぜにいなごがとび交う。手ぬぐいを縫った袋を腰に、いなごとりをする。夜に煮つけてつくだ煮にする。また、いろりのおきで焼いたいなごをおろし大根であえると、一味違ったおいしさがある。

■蜂の子

 家の軒先にある足長蜂の巣の「はちのこ」は、子どもでも取れるのでちょいちょい食べる。地蜂は、好きな人が蜂を追いかけて巣をみつけ、とってきてはちのこ飯などにするが、ごくわずかである。

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●伊那谷

■ざざ虫

 寒中のころ、天竜川でざざ虫とりをする。ざざ虫は、川の水が勢いよく流れ、ざざ、ざざと波の音がするところにすんでいるから、この名前があるという。とびげらやかわげらの幼虫である。春になって水がぬるむと深いところに入ってしまうので、寒中にとる。

 とってきたら、小石やごみを除いてよく洗い、砂糖と醤油を煮たてた中に生きたまま入れて、中火で焦がさないようにしながら、汁気がすっかりなくなるまで煮る。珍味として少しずつ来客用にする。

■いなご

 秋になるといなごがとれる。稲刈りをはじめるとき、朝30分くらいいなごとりをしてから仕事にかかる。布袋へ入れて帰り、炒りなべで炒って足を除き、醤油と砂糖でからからに煮つける。何回かにわたって、一升か二升くらいを煮つけておき、ふたつきの入れものにとっておく。大切な滋養になる食べもので、ときどき出して食べる。

■蚕のさなぎ

 養蚕の盛んなこの地方では、肉や魚のかわりに蚕のさなぎを、ごくふつうに食べる。春蚕や秋蚕上がりに近くの製糸工場へ行くと、さなぎを分けてくれる。たっぷりのお湯の中で一度ゆでる。これを砂糖少しと醤油で煮つけて、からからになるように仕あげる。こうしておくと保存もきくので、ときどきごはんのおかずとして利用する。

■蜂の子

 また、蜂の子も食べる。地蜂の巣をさがし、巣が最も大きくなるのを待ってとり、蜂の子を落とし出す。蜂の子ごはんにしたり、空炒りにして塩をふって食べたりする。蜂の巣とりの好きな人がいて、そのおすそ分けがあるから、近所の人たちは喜ぶ。

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●諏訪盆地

■蜂の子

 「すがり」と呼ばれる地蜂の幼虫である。蜂の巣の裏側を火であぶると、蜂の子が巣から落ちてくる。

 砂糖、醤油に水を少し加えて煮たて、蜂の子を入れて炒りつける。これをびんに入れて保存し、来客のとき、ごはんに混ぜて蜂の子飯にする。

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●佐久平

■いなご

 稲の葉を食べて育ったいなごは、田んぼに霜の降りる前ころが脂がのっておいしく、「霜いなご」ともいわれる。稲刈りから脱穀のころ、さらしの袋を腰にぶら下げていき、田仕事の合い間に四つ五つととる。

 お湯に通してよく洗い、飛び足と羽をもぎとって甘からく煮つける。砂糖、醤油は目分量である。かめにとっておいて、冬中のおかずにする。

 また、お湯でゆでてから、からからに干したものをすり鉢ですりつぶし、いなご味噌にして食べる。田植えどきのなめ味噌になったり、産婦によいといって味噌汁に入れて食べさせる。

 いなごの煮かたにも家々の秘伝があり、色も味も歯ぎわりも微妙に違っていて、自慢の種になる。

■蚕のさなぎ

 養殖ごいの財である蚕のさなぎは、近くの製糸工場から手に入れて、庭先いっぱいにむしろを広げて乾燥させておく。新しいものが手に入ると、その一部を食用にする。さなぎ3個で卵1個分の滋養があるといわれ、これを食べて農繁期を乗り切る。

 さなぎをゆがいて脂気をとり、味を濃くして甘からく煮つける。

■蚕蛾の雄

 また、さなぎからかえった雄の蛾をつくだ煮にしたものは「まゆこ」といい、珍重される。雄の蛾は蚕種業者から譲ってもらう。

■げんごろう

 九月、田のこいを揚げるときに、げんごろうもたくさんとれる。つややかな羽をひろげて飛んでいってしまうので、ふたが必要である。

 その羽をもぎとって、焼いたり炒ったりして塩味で食べる。すずめ焼きの味がするといって珍重される。

■蜂の子

 夏の終わりから初秋にかけて、子どもたちは地蜂とりに野山をかけめぐる。真綿に肉片をつけたものをくわえて飛ぶ蜂を追っかけて、地蜂の巣をみつける。乾いた土手の土の中に三段くらいに重なってある。火薬をいぶして蜂を仮死させてから掘りとる。

 地蜂の巣を火にかざして逆さにすると、白いうじ虫のような幼虫や、羽が生えかかった若蜂が落ちる。これを油で炒め、醤油、酒、砂糖で、汁がなくなるまで炒り煮する。

 炊きたてのごはんに混ぜた蜂の子飯は最高のごちそうである。

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●善光寺平

■蚕のさなぎ

 売りものにならないびしょ(薄い繭)から糸をとり、玉繭(さなぎが二ひき入っている繭)から真綿をつくる。このときにでるさなぎは、煮つけておかずにする。

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●西山

■蚕のさなぎ

 春蚕から晩秋蚕まで蚕の世話に明け暮れるが、その副産物としてさなぎがある。とくに九月から十月にかけての玉繭(大きな繭)やさび繭は価格が安くなるので、自家用として煮て、真綿をとったり、糸を引いたりする。

 残ったさなぎはきれいに洗い、ほうろくに入れて空煎りし、醤油と砂糖で煮つける。ごはんのおかずになる。

 これを食べると、力がでるし、元気づくのである。

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■長野の昆虫食品

長野ではさりげなく昆虫食品がお土産物屋やスーパーにおかれています。そのうちのいくつかをご紹介します。価格は2005年8月現在です。味付けはいずれも佃煮風、なじんだ味ということでしょうか。

商品 左から、【1】まゆこ(カイコ成虫)(缶)30g 525円、【2】イナゴ(瓶)80g 530円、【3上】蜂の子(缶)130g 2079円、【3下】イナゴ(缶)45g 418円、【4】蜂の子(瓶)80g 1100円、【5】さなぎ(缶)35g 420円

ハチの子缶 《蜂の子(缶)130g 2079円》

幼虫と蛹が主だが、時として成虫が混じる。

イナゴ缶 《イナゴ(缶)45g 418円》

飴色に光っておいしそうだ。

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