カミキリムシ幼虫の食性は一般に特定の樹木の芯に入り込み、ほぼまっすぐに生木を食い進む。食い穴が銃の弾道のようなのでテッポウムシとあだ名され、美味なためよく食べられてきた。かつて木炭などが燃料として使われていた時代には、まき割りでかんたんに子供たちのおやつが得られたのである。囲炉裏の灰に埋めて蒸し焼きにして食べるのが食べ方の常道だったという。
いまではカミキリムシ幼虫の入手が難しく、昆虫食マニアにとってはまさに夢の食材となっている。その夢の食材にとあるブログで出会った。それはデカイコこと江口純一郎さんのブログだった。桑畑の害虫退治の記事があり、いかにも美味しそうなクワカミキリの幼虫の写真も掲載されていた。
垂涎の写真を見せられてはじっとしていられない。さっそく江口さんに連絡を取り、カミキリムシをいただきに千葉へでかけた。外房線大網駅まで迎えにきていただく。180cmという長身のまだ若い好青年だ。学生のころから伝統工芸をしたかったというから、夢に向かって、良質の桑の栽培から糸繰りまで、情熱的に仕事をされている。
除草剤、殺虫剤を使わない栽培なので、カミキリムシ退治も手で行っている。ハネグロアカコマユバチが幼虫に寄生すると図鑑にあるので、もしかしたらこれを使った天敵防除が可能かもしれない。あるいは千葉はビワ栽培ば盛んと聞く。クワカミキリはビワにも付くらしいから、ビワをいわゆるバンカープランツに見立てて、桑畑を囲ってブロックできないか。境目の桑に被害が多いようなのでそう思った。ただしこれが成功すると、こちらは幼虫がもらえなくなるので、痛し痒しではある。
着くとさっそく桑畑に案内される。カミキリムシは枝に産卵する。孵化した幼虫は幹に向かって芯を食べ進む。だから根に近いほど太くて大きい。したがって作業としてはいそうな枝に当たりをつけ、ノコギリで切り、食べ穴があったら5ミリから10ミリぐらいずつ根元の方へ輪切りしながら確認していく。この作業を繰り返してカミキリムシがひそんでいるのを見つける。一度に切りすぎると虫体を真っ二つにしてしまう。防除としてはなんら問題ないのだが、採集する場合はこれでは困るので、慎重に切り進めるしかない。
前日に江口さんが捕ってくれていたこともあり、合わせて約20頭の収穫。予想を上回る大猟である。体長は最大35ミリくらいか。さっそく用意していったフライパンにバターをひとかけら入れ、とれたてのカミキリムシ数頭を放り込んで試食した。予想にたがわず美味しかった。ぱりっとした外皮を噛むと中身はやわらかなトロに近い味わいだ。江口さんもこれは美味しいと顔をほころばす。これからはもういただけないのでは、と有らぬ心配が頭をよぎる。
糸を繰って出た丸々したさなぎもいっしょに炒めた。さなぎはやはり炒めていると独特な臭いがある。噛むと外皮がぷちっと破れ、中身は白身魚に似た歯触りでやわらかい。佃煮のしこしこ感とはまた違う食感だ。新鮮だからこそに違いない。バターのまろやかさと塩・コショウが臭みを和らげてくれている。作りたての旨さだ。
せっかくだからと糸繰りの様子も見学させていただく。実際に糸車を回す体験もした。残りのカミキリムシを容器に入れて、意気揚々として帰途につく。快く迎えて丁寧に説明いただいた江口さんに、あらためてこの場で感謝したい。
コメント
はじめまして。
ファーブル先生も舌鼓を打ったという、カミキリムシ幼虫ですね。
私の家では各種柑橘を栽培しておりまして、改植時に樹を伐採するので、ゴマダラカミキリの幼虫をふんだんに入手できます。
ファーブル先生のエピソードを思いだし、また憎むべき樹の仇とばかりに、塩コショーで残酷バター炒めにして、これを食したところ非常に美味でありました。
クワカミキリ幼虫の方が、コマダラ幼虫よりも少し大きいのでしょうか、食べごたえがありそうですね。
ゴマダラカミキリが「ふんだん」とはなんとも羨ましいかぎりです。根本にいくほど大型なのですが、クワは伐採できないので、最大で35ミリぐらいでした。ゴマダラはだいたい何ミリぐらいありますか。クワとゴマダラを食べ比べてみたいものですね。
クワもゴマダラもどちらもうらやましいかぎりです。
我が家で昨年数頭採取できた菩提樹の薪は、
すべて消費してしまったので、
今年はまだ鉄砲虫にお目にかかってません。
次は栗の薪と枇杷の木を探してみます。
>バンカープランツに見立てて、桑畑を囲ってブロック
この場合だと、バリアープランツの方が適切だと思います。
バンカーは「天敵類の補給源」ぐらいの意味なので。
Sekizuka さん、ありがとうございます。確かにこの場合はバリアープランツが適切でしょう。
それから天敵防除ですが、これはもっぱらハウスなど閉鎖空間で効果的であり、今回の桑畑の場合など開放空間だと、天敵が拡散してしまいあまり効果的でないことを、これを書いた後で知りました。
無農薬によるカミキリムシ防除の方法をごぞんじの方がいましたら教えてください。しかも防除できてカミキリムシも得られたら一石二鳥です。こんな虫のいい話はないでしょうね。
先日は、うちのブログにわざわざお越しくださいましてありがとうございました。
天敵糸状菌をつかった防除というのを検索でみつけました。
この菌はカミキリムシだけに付く菌ですので、カイコや他の生物には影響がないそうです。
ただ、残念なことに(?)翌年からカミキリムシの幼虫たちを得られなくなってしまうと思います・・・。(得られたとしても、菌糸によって味が変わっていそうですね)
最近は微生物を使った農薬代替技術あるみたいですね。
自分は農業系短大(しかも微生物系の学科)を卒業しているのですが、自分の知識が古くなっていることにガクゼンといたしました・・・。
お力になれなくてすいません~。
やはり生木食いのカミキリは美味しいのでしょうか?
河川敷の朽木を割ればウスバカミキリの幼虫はたくさん出ますが、
苔むした朽木などから出るので食べようと思いません。
ゴマダラ幼虫は大きくて4cmぐらいです。
炒めると、皮がこんがり、パリパリに張って香ばしい!とろーりクリィミーな中身と対照的で、おいしいですね。
カミキリに寄生する糸状菌は、成虫に感染致死する結果、成虫による食害が減る、産卵しなくなるので幼虫を減らすという効果ですね。よって、幼虫の味には問題なし!ですが、幼虫に問題がないということは樹がやられるということで、果樹農家としては、やっぱり嫌なやつらです。
最大の防除法は、カミキリの孔を見つけたら即針金を突っ込んで刺殺、です。
通りすがりさん、ありがとうございます。カミキリムシの美味しさを共有できてとても嬉しく思います。ゴマダラもやはり美味しいんですね。機会があったらぜひとも味わってみたいものです。
ところで最大の防除はやはり針金で刺殺ですか。私としては複雑な気分です。果樹が生業であればそんなことはいっていられないでしょうけれど。
はじめまして。ひょんなことからここにたどり着きました。
40年くらい前に祖父と散歩した時に、柳の木の中にいたこのカミキリムシの幼虫を捕まえて、かりかりに炒って食べさせてくれました。
中までカリカリになるまで炒ると、食べるのに全く抵抗もなく、ものすごくおいしかったですね。あのおいしさは、忘れられません。
ゆたぽんさん、カリカリに炒ったカミキリ、ホントに美味しいですよね。おじいさんとカミキリを食べた思い出があるなんて、うらやましい限りです。またぜひ食べてみてください。