048 『045陸自サバイバルレシピ「昆虫の食べ方」について』の補足

先日書いた記事に対する予想をこえた反響の多さに驚いている。陸自資料のあまりの荒唐無稽さに驚き、ブログ来訪者の大多数であると想定される一般の人達に向けて、本当の虫の味と、虫ならではの基本的な調理の仕方を挙げたものである。常日頃虫食に親しむ経験があれば、緊急事態になにがしかの役に立つかもしれない。
さて今回は補足として、まず採取しやすいにもかかわらず陸自レシピで取り上げられていないゴキブリ類、コオロギ類について、基本的な食べ方を述べる。次に昆虫調理の定石をまとめ、最後に昆虫食材の持つ諸要素を考えてみたい。
■レシピの補足
●ゴキブリ
本種も空揚げが最も食べやすい。小エビに似たサクサクした食感である。甲虫類と違って外皮が比較的やわらかなのでまるごと食べられるのがいい。
ゴキブリは屋内性だけでなく、とりわけ日本固有種のヤマトゴキブリは雑木林などに生息し、野山での採集が容易である。多量に取れたときなど甘辛に煮込んでおけば何日かの貴重なタンパク源となるであろう。
最近当会で注目しているのがマダガスカルゴキブリである。本種は体長50ミリ〜60ミリと大きく、アロワナの餌としてのほか、意外にペットとしても出回りつつある。羽がなく動作も緩慢なので一見ゴキブリとは思えない。
食べ方としてはやはり空揚げが最適である。思ったほど癖がなく食べられる。なによりなのは虫体が大きいだけに数頭食べれば満腹感が得られることである。日本産に比べて外皮がやや硬いものの、焼いても炒めても丸ごと食べることができる。気になる場合は頭部を取り去るといい。蒸して中身を食べることもできる。
当会では本種が雑食であり、飼育・繁殖が比較的容易である点に注目している。餌を工夫すればさらに美味しくなる可能性があるし、新鮮で安全なゴキブリを食べることができる。たとえば温暖化などによる慢性的な食料不足に備えて自前の「マダガスカルゴキブリ牧場」は有効な手段かもしれない。今後の研究課題といえる。
●コオロギ
調理法はゴキブリと同じく空揚げがお勧めである。ゴキブリより外皮がやわらかなのでさらに食べやすい。串焼きなどしてもおいしい。
ペットショップなどで売られているハウスクリケット、フタホシコオロギなどは通年繁殖が比較的容易である。
■昆虫調理の定石
(1)まず加熱
加熱することで大部分の危険はのぞかれて安全性が保証される。生がうまい種もあるが、万が一に備えて熱を通して食べることを勧めたい。
(2)調理法
○揚げる
昆虫食材にもっとも合った調理法は油で揚げることである。一般に成虫は外皮がキチン質で硬くて食べにくいものである。幼虫とりわけ芋虫・毛虫系など食べやすそうに見えるが、たとえば煮たりすると硬い紙を噛むように味気なくなる。カラっと揚げるとほとんどの昆虫が丸ごと食べられる。
○炒める
油が少ない時など揚げるに準じた方法で、わりあい外皮もやわらかくなる。バターなどがあると旨みがましてさらに食べやすくなる。
○包み焼き、蒸し焼き
緊急時で油がない場合などには、蒸し焼きにして中身を食べる。まずアルミホイルなどで包むが、それもない場合は濡らした新聞紙ないし木の葉で包む。石など敷き、包んだ昆虫をならべ、土を薄くかけ、その上で火を焚く。焼き芋を食べる要領で、頃合いをみて皮をむき、塩・コショウでいただく。
○煎る
たとえばバッタ、イナゴ、アリなどを煎って乾燥させ、叩いて細かく砕いて保存する。塩など混ぜてふりかけとしてそのまま使えるし、小麦粉に混ぜてパンを焼いてもいい。乾燥すれば長期保存が可能になる。
○焼く
調理器具等ない場合、焼き石にのせて焼くことを勧めたい。昆虫類は小さいから自火だとうっかりすると焦げてしまうおそれがある。毛虫などは毛が落ちて食べやすくなる。
○煮る
甘辛く煮詰めることで保存食となる。いわゆる佃煮であり、日本のもっとも伝統的な調理法である。
■昆虫食材の持つ三要素
教養の人、木下謙次郎が著した『美味求真』(1925年)は、味と料理の原典として今日でも名高い。第7章「悪食篇」では昆虫が取り上げられている。その冒頭にこうある。「しかし初めは悪食と認めらるる物もたびたびこれを口にするに従って次第に美味を感じ来たり、遂には善食となることなきに非ず。されば結局食品は舌の教育次第にて善食ともなり得るものにして、食に善悪の別を立つるは困難なりとす。」これを読むと、舌を慣らす訓練の大切さを痛感させられる。最初はゲテモノも食べなれると珍味となる。
人間は製造日や賞味期限など情報により食品の安全性を確認する。ところが野生動物は鼻と舌だけが頼りであり、つまり五感の働きを駆使しなければ生存が危ういのである。人間もサバイバル時には五感を働かせなければならない。日頃から昆虫という未知の食材を食べることで、情報と五感のバランスを養うことができる。
質問1「検尿コップに注いだビールが飲めるか」(コップは未使用)
質問2「パンツを洗った鍋で作った煮物が食えるか」(鍋は熱湯消毒)
両方大丈夫な人は多分昆虫も平気で食べられるに違いない。衛生的で栄養があるにもかかわらず昆虫が食材と見なされないのは、こんな脳に起因する心理的な要因も関与している。
先述したマダガスカルゴキブリとの出会いによって、文化人類学者マーヴィン・ハリスの言う「生態学者の最善採餌理論(optimal foraging theory)の昆虫食への適用」が一気にリアリティーを帯びてきた。狩猟採集者は食べられる物のなかでもっともコスト/ベネフィット比の良いものを選ぶ、という進化論の適応から考えられた理論である。東南アジアやアフリカで昆虫が食材とされるのは、その量と大きさによって採集効率が高まるからに他ならない。マダガスカルゴキブリの大きさを見るとそのことが実感させられる。
さらに「食べ物」はひとえに「文化」に支配されている。インド人にとって牛は「食べ物」ではなく、アラブ人にとって豚は「食べ物」ではなく、同様に日本人にとってゴキブリは「食べ物」ではない。日本国内に限定しても、信州人の多くはイナゴや蜂の子を「食べ物」とみなすが、他の大多数の人たちにとっては「食べ物」ではない。
このようにみてくると、昆虫食材は、以下の三要素が複雑にからみあう、非常に興味深い学問領域ということができるであろう。
(1)脳に起因する心理的要素
(2)食料獲得における全体的な効率の要素
(3)道徳・信仰・理念など文化的要素
参考文献
木下謙次郎著『美味求真』五月書房
伏木亨著『人間は脳で食べている』筑摩書房
マーヴィン・ハリス著/板橋作美訳『食と文化の謎』岩波書店
西江雅之著『「食」の課外授業』平凡社

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コメント

  1. takanori678 より:

    昆虫を食べるって以外に抵抗がありますが
    食べてみると意外と旨いものもありますよね。
    拙者は子供の頃祖父に芋虫食わされたことがあります。

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