昆虫食の話をしていて、田舎が信州だというと納得される場合が多い。確かにいまでも近所のスーパーの佃煮売場などにいけば、イナゴの佃煮のパック詰めがヒジキや昆布の佃煮の隣でなじんでいる。缶詰コーナーを見ればイナゴ缶とハチの子缶は定位置ですましている。長野県は南北にながい。地域によってザザムシとかサナギが店頭の常連になっていたりする。長野駅周辺の土産物店などでは、そうした昆虫食品各種を見ることができる。
かつて信州各地では多彩な昆虫食文化が存在していた。日本の食生活全集20『聞き書 長野の食事』(1986(昭和61)年、農文協刊)の抜粋を以下に掲載する。
●安曇平
■いなご
秋には田のあぜにいなごがとび交う。手ぬぐいを縫った袋を腰に、いなごとりをする。夜に煮つけてつくだ煮にする。また、いろりのおきで焼いたいなごをおろし大根であえると、一味違ったおいしさがある。
■蜂の子
家の軒先にある足長蜂の巣の「はちのこ」は、子どもでも取れるのでちょいちょい食べる。地蜂は、好きな人が蜂を追いかけて巣をみつけ、とってきてはちのこ飯などにするが、ごくわずかである。
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●伊那谷
■ざざ虫
寒中のころ、天竜川でざざ虫とりをする。ざざ虫は、川の水が勢いよく流れ、ざざ、ざざと波の音がするところにすんでいるから、この名前があるという。とびげらやかわげらの幼虫である。春になって水がぬるむと深いところに入ってしまうので、寒中にとる。
とってきたら、小石やごみを除いてよく洗い、砂糖と醤油を煮たてた中に生きたまま入れて、中火で焦がさないようにしながら、汁気がすっかりなくなるまで煮る。珍味として少しずつ来客用にする。
■いなご
秋になるといなごがとれる。稲刈りをはじめるとき、朝30分くらいいなごとりをしてから仕事にかかる。布袋へ入れて帰り、炒りなべで炒って足を除き、醤油と砂糖でからからに煮つける。何回かにわたって、一升か二升くらいを煮つけておき、ふたつきの入れものにとっておく。大切な滋養になる食べもので、ときどき出して食べる。
■蚕のさなぎ
養蚕の盛んなこの地方では、肉や魚のかわりに蚕のさなぎを、ごくふつうに食べる。春蚕や秋蚕上がりに近くの製糸工場へ行くと、さなぎを分けてくれる。たっぷりのお湯の中で一度ゆでる。これを砂糖少しと醤油で煮つけて、からからになるように仕あげる。こうしておくと保存もきくので、ときどきごはんのおかずとして利用する。
■蜂の子
また、蜂の子も食べる。地蜂の巣をさがし、巣が最も大きくなるのを待ってとり、蜂の子を落とし出す。蜂の子ごはんにしたり、空炒りにして塩をふって食べたりする。蜂の巣とりの好きな人がいて、そのおすそ分けがあるから、近所の人たちは喜ぶ。
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●諏訪盆地
■蜂の子
「すがり」と呼ばれる地蜂の幼虫である。蜂の巣の裏側を火であぶると、蜂の子が巣から落ちてくる。
砂糖、醤油に水を少し加えて煮たて、蜂の子を入れて炒りつける。これをびんに入れて保存し、来客のとき、ごはんに混ぜて蜂の子飯にする。
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●佐久平
■いなご
稲の葉を食べて育ったいなごは、田んぼに霜の降りる前ころが脂がのっておいしく、「霜いなご」ともいわれる。稲刈りから脱穀のころ、さらしの袋を腰にぶら下げていき、田仕事の合い間に四つ五つととる。
お湯に通してよく洗い、飛び足と羽をもぎとって甘からく煮つける。砂糖、醤油は目分量である。かめにとっておいて、冬中のおかずにする。
また、お湯でゆでてから、からからに干したものをすり鉢ですりつぶし、いなご味噌にして食べる。田植えどきのなめ味噌になったり、産婦によいといって味噌汁に入れて食べさせる。
いなごの煮かたにも家々の秘伝があり、色も味も歯ぎわりも微妙に違っていて、自慢の種になる。
■蚕のさなぎ
養殖ごいの財である蚕のさなぎは、近くの製糸工場から手に入れて、庭先いっぱいにむしろを広げて乾燥させておく。新しいものが手に入ると、その一部を食用にする。さなぎ3個で卵1個分の滋養があるといわれ、これを食べて農繁期を乗り切る。
さなぎをゆがいて脂気をとり、味を濃くして甘からく煮つける。
■蚕蛾の雄
また、さなぎからかえった雄の蛾をつくだ煮にしたものは「まゆこ」といい、珍重される。雄の蛾は蚕種業者から譲ってもらう。
■げんごろう
九月、田のこいを揚げるときに、げんごろうもたくさんとれる。つややかな羽をひろげて飛んでいってしまうので、ふたが必要である。
その羽をもぎとって、焼いたり炒ったりして塩味で食べる。すずめ焼きの味がするといって珍重される。
■蜂の子
夏の終わりから初秋にかけて、子どもたちは地蜂とりに野山をかけめぐる。真綿に肉片をつけたものをくわえて飛ぶ蜂を追っかけて、地蜂の巣をみつける。乾いた土手の土の中に三段くらいに重なってある。火薬をいぶして蜂を仮死させてから掘りとる。
地蜂の巣を火にかざして逆さにすると、白いうじ虫のような幼虫や、羽が生えかかった若蜂が落ちる。これを油で炒め、醤油、酒、砂糖で、汁がなくなるまで炒り煮する。
炊きたてのごはんに混ぜた蜂の子飯は最高のごちそうである。
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●善光寺平
■蚕のさなぎ
売りものにならないびしょ(薄い繭)から糸をとり、玉繭(さなぎが二ひき入っている繭)から真綿をつくる。このときにでるさなぎは、煮つけておかずにする。
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●西山
■蚕のさなぎ
春蚕から晩秋蚕まで蚕の世話に明け暮れるが、その副産物としてさなぎがある。とくに九月から十月にかけての玉繭(大きな繭)やさび繭は価格が安くなるので、自家用として煮て、真綿をとったり、糸を引いたりする。
残ったさなぎはきれいに洗い、ほうろくに入れて空煎りし、醤油と砂糖で煮つける。ごはんのおかずになる。
これを食べると、力がでるし、元気づくのである。
コメント
いなご味噌は初耳です。
どんな味になるんだろう。
まゆこに雌を使わないのは、産卵残りの卵の食感が最悪だからだそうで。
これは硬い卵を産むヤママユなんかの蛾の雌でも同じことが言えそうですがどうなんでしょう?
久々にイナゴ食べたくなってきました。
まだ秋は遠いなぁ
日本って、狭いようで広いですね…
交尾雄以外は不要なので食べ、雌は産卵させるので食べないと思いこんでいました。以前に食べた子持ちスズメガの卵の歯触りがよかったし…。本当のところはどうなんでしょうか。
以前観た番組では長野でまゆこの佃煮を作ってる工場が出てましたが
そこの工場長がそんなことを言ってたのです。
雌は産卵を終えたものでも少し卵が残っていて、これがジャリッとするから雄だけ選んで鱗粉を洗って落としてから料理するんだと。
まゆこは生きたところから料理したことがないので、その話が全てでした。
もしかしあら、残り卵というのがミソで、未成熟卵ならまた話は違うのかも?
なるほど、微妙ですねえ、たしかに中途半端に残っていると食感がわるいかもしれません。
ところでご存じ「かねまん」のミニ缶「まゆこ大和煮」の缶フタの裏に「信州の自然が育てた伝統の逸品」とあり、さらに次のような紹介文が続きます。
「蚕の蛾(産卵直後のもの)をよく水洗いし、極上のしょうゆと味醂、砂糖で伝統の味付けをしたものです。大昔から養蚕の盛んな信州伊那地方では最高の栄養補給源として珍重されてきました。「蜂の子」「ざざむし」「いなご」などとともに心からおすすめする高級珍味です。」
産卵直後のものというと「かねまん」では雌を使っているのでしょうか。「直後」がミソかも知れませんね。
えーそうだっけ!?
と思って、昔買って保管してた分を思い出しミニ缶を発掘してみました。
賞味期限が1年以上切れてるのは置いといて・・・・・・・こんなとこに書いてあったっけか
以前は気付かず捨ててしまってたようです。
謎ですね。雌でもいいのか、タイミングがあるのか、わかりやすく書いてるだけなのか。
なんにせよ、蚕を食べるというのは理にかなった食文化であることには違いなく、より美味しい状態を選択されてるのは確かではないかと思います。
「まゆこ」に使うのは雄か、雌か、それとも両方なのか。そのへんのことが気になったので、製造元の‘かねまん’さんに直接聞いてみました。
‘かねまん’さんでは、缶詰の記載どおり、産卵直後のメスを使うそうです。佃煮なのでお腹に残った卵の食感が悪いということはないとのこと。ちなみに「まゆこ」という名称は‘かねまん’さんが考えた商品名なんだそうです。そういえば「まゆ子」なんてステキな命名ではないですか。
日本でも数少ない蚕の種屋さんが長野県松本市にある。そこでは繭の段階で雌雄判別を行っている。繁殖に必要な雄は1割なので、残りの9割のさなぎを仕入れて「かいこのさなぎ」缶を作る。それから羽化して産卵を終えた雌を仕入れて「まゆこ」缶を作るのだそうです。
かつては繭の段階で雌雄判別ができなかったでしょうから、羽化したうち雄の9割を佃煮にするところもあったでしょう。確かに合理的な利用法だと思います。
イナゴやハチの子のこともちょっと聞いてみましたが、多くが地元産ということで驚きました。もっとも輸入するほど大量に作っていないのかもしれませんが。
はじめまして、516と申します。 いつも大変興味深く拝読させていただいています。
私は未使用検尿コップでもビールが飲める人間なので、昆虫食に抵抗はあまりなく、むしろこの記事を読んでいて、虫料理をゲテモノ扱いにしてウゲーと忌避することに、ちょっぴりだけ違和感を覚えてました。
さて、疑問に思ったことがあるのですが、日本において昆虫食文化が存在しない理由というのは、単に「昆虫以外の食料による方が栄養効率がよく、習慣的に食べられていなかった為にゲテモノ扱いになったから」ということなのでしょうか?
ちょっと妙だなあと思ったのは、ただ習慣がなかったというだけで、ここまで虫料理に対する偏見が出来上がるものなのかということです。 そんなものなのでしょうか。
なるほど、じゃぁ以前TVで観たやつは一体なんだったんでしょうね。
そんなに昔じゃなく5年以内だったような気がするのですが。
結局、どっちでもいいのかもしれませんね。
手元にあるまゆこ缶をあけて雌雄判別したほうが早いか。
でも触覚なんかわからなくなってますね。素人には無理か。
日本の昆虫食に対する偏見は、「習慣になかったから」というより「食べ物ではないから」という認識、もっといえば「気味悪い生物だから」という認識が浸透しすぎてしまっているため、食べるという行為まで繋がらなくなってしまってるんじゃないでしょうか。
「わからなければ食べられる」というのは勿論、「姿さえ見えなければわかっていても大丈夫」なんて人も意外にいたりするので、昆虫などのカタチ自体に抵抗を覚えるような擦り込みを繰り返されて育っているのが、現在の多くの日本人なのではないかと思ってます。
私はそんな偏見は損だと思っているので、安全さえ確認できればなんでも試しますけどね。
もちろん検尿コップでビールも平気。お茶なら試したことあります。
しかしトイレで飯を食うのは不味く感じるのでまだまだ甘い?
たしかに「かねまん」さんの「まゆこ」は産卵後の雌ばかりだったと思います。腹部が完全に空になっていて、ぶかぶか状態でした。肉も脂も無くそれ自体はあまり美味しくないと思いました。
やはり、蛹の方が、香りに癖はありますけど、食べ応えがありますね。産卵前後の肉質のギャップが大きいのは、鮭などと同様で、どの動物でも見られる現象ですね。
五、六年前だと思いますが、テレビで、「まゆこ」を作っている人を紹介していました。
レポーターの「サナギを食べる地方もあるようですが……」という質問に、その方は、「我々が食べるのは、あくまで成虫だけであり、サナギのようなゲテモノは食べない」というようなことを言っておられました。
逆に、私の母は、長野県須坂市に疎開していたことがあり、サナギの佃煮は好物なのですが、「まゆこ」の話を聞いた時には、身を震わせて気味悪がっておりました。
食習慣っていうのは、不思議なものだなあと思いました。
始めまして私は千葉県で日本刺繍糸を作っています、仕事内容は養蚕と繰糸を行っています。その為に繰糸後にサナギが沢山出ますが今のところ、土の中に埋めています。
最近になって養蚕をやっているのだから出たサナギは感謝して食べたいと思い、ためしに少し食べましたがサナギの匂いが強すぎて美味しいとは言えません。ちなみに私のところでは製糸工場さんのように乾燥させたサナギではなく、生のサナギを使っている事も原因かもしれません。
そこでもしよろしければ匂いを消す方法などあればおしえて頂けないでしようか。
またサナギの佃煮は通信販売していないでしょうか。
うへの値段表で、
>さなぎ(缶詰)35g 420円
とあるのは、蚕の蛹だらうが、さすがに土産物といふ値段だ。
この際、蛹を購入して、自分で料理するはうがいいやうだ。
チャレンジしてみやう。
ガラスに卵をくっついて昆虫
ガラスに卵を産む虫
SECRET: 1
PASS:
私は爬虫類やアロワナロと言うペットのえさを探しています。もしよければ蜂の子や、かいこの幼虫等有代で分けて頂けますか?かまきりの卵のうを探しています。あれば送って欲しいです。こちらに連絡欲しいです。yk6464-dorcus@docomo.ne.jp