『食用昆虫――食料・飼料安全保障の今後の展望』
動物性タンパク質の価格上昇、食料安全保障、環境圧、人口増加、中間所得層のタンパク質需要の増加など、今世紀の抱える諸問題を解決する手段として昆虫食が注目を集めている。
・昆虫の役割
世界的にみれば約20億人が1900種以上の昆虫を食べている。食用のほか昆虫は受粉、蜂蜜や絹の提供、医療など様々な価値を人類に提供している。
・文化
昆虫食は文化的・宗教的習慣に負うところが大きい。世界の多くの地域で食べられているが、西欧諸国では野蛮な行為として軽蔑されてきた。そのため農業研究で昆虫は軽視され、食料として注目を集めるようになったのはごく最近のことである。
・天然資源としての昆虫
従来昆虫は無限に採集できる天然資源とみなされてきた。しかし現在は様々な人的要因で多くの食用昆虫が減少してきている。そのため各地域で生息環境の保全対策が行われている。
・環境による機会
昆虫を食料や飼料として育てる環境的な利点は以下が挙げられる。
1 飼料変換効率の高さ:たとえばコオロギを1kg増やすのに2kgの餌ですむ。
2 人間や他の動物の廃棄物を含む副産物的な有機物で育てることが出来、環境汚染の削減に貢献できる。
3 牛や豚に比べ温室効果ガスやアンモニアの排出が少ない。
4 牛の飼育に比べはるかに狭い土地と少量の水しか必要としない。
・人間の食用のための栄養
昆虫は種類が多く栄養価にはかなりのばらつきが見られるものの、全体的にタンパク質や脂肪が多く、ビタミン、食物繊維、ミネラルに富んだ、高栄養で健康的な食料源である。
・養殖システム
人間の食料として飼育するという考え方は比較的新しく、熱帯地域の例としてラオス、タイ、ベトナムのコオロギ養殖例がある。
・動物の飼料としての昆虫
近年の魚肉や大豆の価格高騰をうけて、水産養殖や家禽生産の配合飼料としての昆虫利用の研究が進められている。
・加工
粉末やペースト状に加工したり、タンパク質や脂肪、キチンやミネラルを抽出することも可能である。
・食品の安全と保存
食品としての安全を担保するため、他の伝統的な食料や飼料と同じく、安全、衛生の規則に則っているべきです。
・生活改善
小家畜として昆虫は、一般の家畜と比べ、採集、養殖、加工、販売が比較的容易である。栄養価の高さ、入手や飼育の容易さ、成長速度の早さなどから、緊急の際の食料供給、社会的に脆弱な人々の食生活の改善による栄養不足の改善と同時に、余剰昆虫の販売によって現金収入を得ることもできる。
・経済成長
昆虫の採集および養殖は雇用と所得を産む。とりわけ食用昆虫への需要がある地域では、市場へ持ち込みやすい。
・コミュニケーション
昆虫食文化の根付いている主として熱帯地域では、食の西洋化を食い止めるため、昆虫を有望な栄養源として推奨するメディアのコミュニケーションが必要である。と同時に西欧においても昆虫を不快とする心理的要因をとりのぞくため、昆虫が持つ食料および飼料源としての可能性についての価値ある情報を提供する教育的なプログラムによるメディアのコミュニケーションが必要となる。
・法律の制定
昆虫を食品や飼料として定める規則はまだほとんど制定されておらず、食品・飼料業界へ昆虫を供給するための養殖の発展を妨げている。昆虫利用の法制度作りが必要である。
・今後の展望
食料安全保障における昆虫の可能性を広めるために次に挙げる4項目が必要であろう。
1 昆虫を健康食品として推奨するため様々な昆虫の栄養価をもっと詳しく調査し公表すること。
2 伝統的な農業や家畜の飼育慣行と比較し、昆虫の採集や養殖が環境に与える影響についてさらに精査すること。
3 昆虫の採集や養殖がもたらす社会経済への利点、特に貧困な社会の食料安全保障に貢献するかを明らかにすること。
4 より多くの投資を呼び込むため、昆虫生産の発展と国際取引につなげる国レベルの法体系を構築すること。


